彼女に片思い
馴染みの野良猫は、私が半径2メートルのところに来ると一声鳴いてから近寄ってくる。頭まわりを撫でられるのがお気に入りで、しゃがみ込んだ私の周りをぐるぐる回る。
今日の彼女はしきりに南側を気にしていた。散歩中の犬が通ると身体を硬くすることはよくあるが、特に誰もそこにはいない。ただ、ふと頭も持ち上げて南を向き、じっと何かに耳を澄ませている。
誰かを待っているのだろうか。私は餌をあげない主義なので、ご飯をくれる人を待っているのかもしれない。
じゃあそろそろと私が立ち上がると、猫は私を見上げてその場にひっくり返り、地面に背中をこすりつけ始めた。最後にもう一度手を伸ばすと、本気の爪が手のひらをかすめる。やれやれ、これだから猫は。